”言わない方がよかった?” 難聴のことを伝えるべきか、ずっと悩んできた話。

「難聴なんです。」と、周囲に伝えるべきかどうか。
私はずっとこの問いに迷ってきました。

伝えれば、配慮してもらいやすくなるかもしれない。
でも、「やりにくい人だ」と思われないだろうか。
いっそ黙っていた方が、波風が立たないかもしれない――。

これは、聞こえにくさがある人にとって、簡単には答えの出せないテーマだと思います。
今日は、私自身が悩みながら決めてきた「伝えるタイミング」について、お話ししてみたいと思います。

自然に伝えられていた学生時代

学生の頃は、今よりも難聴の症状が軽く、周囲の友達にも「実はちょっと耳が聞こえにくいんだ。」と自然に話すことができていました。

友達との会話は雑談が中心で、会話でしばしば聞き返すことがあっても、本当に困る場面は多くありませんでした。(それでもたくさん落ち込みはしましたが…😂)

だからこそ、社会人になってから「難聴をどう伝えるか」に悩むようになったことが、自分でも少し意外でした。

”伝えない”選択から始まった社会人1年目

最初に就職した職場(小学校ではありません)では、「難聴です。」と自分から伝えることはしませんでした。

当時の私は、症状が今より軽く(軽度難聴でした👂)、補聴器もつけていなかったため、外見から難聴と気づかれることはほとんどなかったと思います。

でも、会話の中で聞き返しが増え、ある上司から「間違ってたら申し訳ないんだけど、もしかして、耳が聞こえにくいですか?」と尋ねられました。

どうやら、名前を呼ばれたり、近くで私の話をされていても気づかなかったりしたことが何度かあったようです。

そんな風に聞かれて、驚きと同時に、少しほっとした気持ちがあったのを覚えています。

正直に「実は難聴で…」と伝えると、その方は、私の話を穏やかに受けとめてくれました。    

けれど、こうも言われました。

「最初に伝えてくれた方が、みんな接しやすかったかもね。伝え方も配慮できたと思うし。」

その言葉が心に残りました。私は悪気なく黙っていたけれど、知らないことで戸惑った人もいたのかもしれない。
それから、「次は、最初に伝えてみよう。」と思うようになりました。

けれど、誰に・いつ・どうやって伝えればよいのか、答えは簡単ではありませんでした。

勇気を出して伝えた日

その後、小学校に勤務するようになり、職場環境は大きく変わりました。

小学校では、年度ごとに教職員の顔ぶれが大きく変わることが多いです。

「知ってくれているだろう。」と思っていても、実は知られていないこともあります。

毎年、「この人には説明したっけ?」と悩むより、いっそ初めに自分から伝えた方がスムーズだと考えるようになりました。

私は、新年度の職員会議や顔合わせの場で、「私は難聴があって、聞き取りにくいことがあります。」と、簡単に伝えるようにしました。

どういう場面で聞き取りにくくなるか、どんな配慮がありがたいか──
相手の負担にならない範囲で、伝えられるように工夫しました。

言葉だけだとイメージしてもらいにくかったり、必要なことを伝え忘れてしまったりするかもしれないので、パソコンで作った資料を見てもらいながら説明したこともあります。

「何か困ったことがあれば言ってね。」
そんなふうに、温かく声をかけてくれる方もいて、とても救われました。

「言う必要なかったのに」の言葉に揺れて

しかし後になって、こういう声もあったと聞きました。

「あんなふうに、わざわざみんなに説明する必要なかったのに。」

ショックでした。

気を遣わせたくて伝えたんじゃない。
ただ、スムーズに関わるために、安心して働くために、自分なりに考えて出した答えだったのに。

「説明したほうがいい」
「いや、言わなくてもいい」
いろんな声があるなかで、どうすればよかったのか――答えが分からなくなってしまいました。

“見える”ことが変えてくれた空気

私がその頃まだ補聴器を使っていなかったことも、誤解を生んだ一因だったのかもしれません。

外見上は気づかれにくく、聞き返しや聞き逃しは多いものの、会話は成り立つので、周囲にとっては「配慮すべきこと」として認識されにくかったのだと思います。

ちなみに、私は「障がい者手帳」は持っていません。制度上、基準に該当しないためです。

それでも日常の中で困る場面はたくさんあります。
会議、電話、雑談──
「聞き返すのが申し訳ない」と感じてしまうこともしょっちゅうです。

「手帳がない=支援がいらない」というわけではありません。

困っているのに“見えにくい”ということが、いちばんの壁なのかもしれません。

今は、補聴器をほぼ毎日つけています。

耳に補聴器があると、「聞こえにくさ」が“見える”ようになります。

それだけで、相手の反応が少し柔らかくなったり、話し方を変えてくれたりすることがあります。

“見える”って、やっぱり大きなことなんだな、と思います。

私にとっての「伝える」という選択

「難聴です。」と伝えるべきかどうかに、正解はないと思います。

伝えたからといって、全員が理解してくれるとは限りません。
黙っていても、うまくやれることもあります。

私は「伝えておいたほうが安心できる」と感じるタイプなので、
今の職場では、教職員にも子ども達にも、必要な場面では自分から話すようにしています。

でもそれは、誰かに強制されるものではないし、
伝えない選択をされる方もいらっしゃると思います。

大切なのは、「自分にとって納得のいく、人との関わり方」を見つけていくこと。

ただ、いざというときに「自分なりの伝え方を持っておく」ことは必要だと思っています。

簡単なひと言でもいいですし、伝えることに慣れていなくても、準備しておくだけで心は少し軽くなります。

それが、難聴とうまく付き合っていくための第一歩なのかもしれません。