【難聴疲労の正体】「リスニングエフォート」とは?難聴者の集中力を奪う、見えない努力を徹底解説

ちゃわん
ちゃわん

お疲れ様!今日はすごく疲れてそうだね。大丈夫?

おはし
おはし

うん…今日はたくさん会話したからもうへとへとだよ。ちゃわんは「リスニングエフォート」って言葉、聞いたことある?

ちゃわん
ちゃわん

リスニングエフォート?何それ?

リスニングエフォートとは

「リスニングエフォート(Listening Effort)」という言葉があります。

「リスニング・エフォートとは、聞き取りが難しい状況において、注意・集中を高めたり、聞き取れなかった内容を推測したり、聴覚以外の認知機能も総動員して話を理解するような行為を意味します。聴覚障害のある方の場合、たとえ聞き取りの成績が良かったとしても、リスニング・エフォートが高い状態にあり、聞き取りだけではなく、様々な活動への影響が生じていると言われています。」(出典:知っていますか?「リスニング・エフォート」 子どもの<聞き疲れ>による学習のしんどさに適切なケアを―茨城大学&オーティコン補聴器、11/13より啓発動画を配信|茨城大学)

言葉を聞くというのは、耳だけの仕事ではありません。耳が拾った音を脳に伝え、脳が言葉として処理し、意味を理解してはじめて「聞こえた」と感じます。そのプロセスに負荷がかかると、知らず知らずのうちに脳が疲れていきます。

※出典で挙げた茨城大学の記事が図解入りでとてもわかりやすかったので、ぜひ見てみて下さい!

聞き取ることで精一杯

たくさん人と話した日は疲れを感じる、という人は少なくないのではないでしょうか。難聴者は特に、その疲れが顕著です。

私も学校で働いていると、子ども達や先生とのやり取りが絶えません。授業中は声が小さい子どもや離れた席の子どもの発表に耳を澄ませます。休み時間には机や椅子の動く音や、周りの人の話し声、扇風機やエアコンの音などが重なるのでさらに聞こえにくくなります。一人ひとりの声の大きさや話すスピードが違うので、集中して耳のピントを合わせないといけません。遠くの文字が見えにくい時に目を細めて見ることがありますよね。あの感覚に近いかもしれません。

それでも聞き取れなかった部分は聞き返したり、頭の中で意味を推測したりして会話を進めます。難聴者にとって「言葉を聞き取る」というのはかなりのマルチタスクです。特に聞き取りにくい環境下では、話を聞くことだけで精一杯になります。カフェや居酒屋、電車の中、テーマパークなど、聞き取りにくい環境はあちこちにあります。

健聴者なら話を聞きながら返事を考えたり記憶したりすることが自然にできるようですが、難聴者は聞き取ることに脳をフル稼働させているため、そこまで脳のリソースを割けません。意味を理解するのに時間がかかるので、会議の司会や書記はスムーズに進行できず、本当に苦手です。😭

そんな聞こえのマルチタスクを何時間も続けていると、夕方にはへとへとになり、子ども達が帰った無人の教室で思わず座り込んでしまうことがあります。放課後の職員室で会議や雑談が始まっても、もう集中して聞き取るエネルギーが残っていない――話し声が右から左に流れていってしまうこともあります。ひどいときは頭が重く、耳鳴りがし始め、あくびが止まらなくなります。😂

静けさが、いちばんの休息

休憩時間がとりにくいことも疲れを加速させます。仕事中に30分でも静かに過ごせる時間があればだいぶ違うと思いますが、小学校の教員は子どもたちが下校するまでノンストップです。放課後も会議や研修でゆっくり休めない日が続くことがあります。

聞き疲れがひどく、頭痛や耳鳴りが出始めた日は、家に帰ってからも無理に人と話したりテレビをつけたりせず、静かな時間を作るようにしています。休日も、疲れがたまっていると感じた時は人混みや騒がしい場所を避けて耳を休ませます。そこまでしてやっと、翌週また子どもたちと向き合う準備が整います。

大げさだと思われるかもしれません。しかし、健聴者でも過労やストレスで目や耳に異常が出る教員は少なくないようです。現在の難聴に加え、疲れやストレスで突発性難聴を発症するとさらに聴力が落ちる可能性があるため、体のメンテナンスは必須です。

「聞こえているように見える」だけ

周囲からは「ちゃんと聞こえてるよ、大丈夫!」と言われることもあります。しかし、聞こえているように見えても、聞き取るために大きな集中力を使っています。言葉を聞き逃さないように目や表情、口の動きも頼りに、常に神経を張り詰めている――それがリスニングエフォートです。

見えない努力が積み重なって、自分でも気づかないうちに無理をしてしまうことがあります。周りの人もやっているのだから自分もやらなければ、という気持ちから、心と体が少しずつすり減っていくこともあります。しかしそんな状態では満足に働けず、気持ちにも余裕がなくなり、子どもとの関わり方にも影響が出ます。私も子ども達への声のかけ方が雑になってしまい、何度も後悔しました。

今は、休むことを前向きにとらえるようにしています。静けさの中で耳を休ませ、心を整える時間。その積み重ねが元気に働ける明日へとつながると信じています。難聴者の見えない努力を、たくさんの人に知ってもらえたら嬉しいです。

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