私は中等度感音性難聴の教員です。仕事でもプライベートでも、新しく知り合った方に難聴について説明する方がいいか、どのように伝えればいいか、いつも悩みます。「難聴で耳が聞こえにくいです。」と言うだけで全て説明できればいいのですが、残念ながらそれでは困り感の半分も伝えることはできません。
「難聴」と聞くと、単に「音が小さく聞こえる」と思っている方も多いと思います。
でも実際には、音量は十分でも言葉として聞き取れないことがよくあります。雑音や話し声が多い場所では聞き取り精度ががくんと落ちます。「カクテルパーティ効果」が機能しにくいことについては、過去の記事でも書きました。(カクテルパーティ効果と難聴 にぎやかな場所が苦手な理由)
他にも、難聴者の耳は、外からは見えない、不思議な聞こえ方をすることがあります。今日は「補充現象(ほじゅうげんしょう)」と呼ばれる症状について書いてみようと思います。
小さい音は聞こえないのに、大きい音は健聴者よりうるさく感じる
「補充現象」、馴染みがない言葉ですよね。私も、もう長く難聴者をやっていますが、この言葉を知ったのはわりと最近です😂
難聴で、補聴器をつけても小さい音は拾えないのに、一定の音量を超えると、途端にうるさく感じてしまう。これが補充現象と呼ばれるものです。
耳の中には、音をキャッチして脳に伝える「有毛細胞」という小さなセンサーがあります。
この有毛細胞が傷つくことにより、補充現象が起こると言われています。
もちろん、難聴者でなくとも大きい音がすると「うるさい」と感じることはあると思います。
しかし補充現象がある難聴者は、健聴者がうるさいと感じる音量よりも小さい音量でも、強く響いて聞こえてしまいます。難聴で音が聞こえにくいはずなのに、一定の音量を超えると、健聴者よりもうるさく感じてしまう。不思議ですよね。
結果として、無理なく聞き取れる音量の幅(「音のダイナミックレンジ」と呼ばれるそうです)が、健聴者より圧倒的に狭くなります。
難聴があると音が小さくなるだけでなく、「音の大きさの感じ方」にも偏りが出てしまうのです。
日常生活での困りごと
テレビや会話の音量調整が難しい
テレビでドラマや映画を見ていると、話し声が聞き取れないことがよくあります。少しでも聞き取りやすいように音量を上げると、BGMがうるさく感じます。
反対に、BGMをちょうどよい音量に合わせると会話音が聞こえません。😂 なので鑑賞中はリモコンをそばに置いておき、こまめに音量調整をしています。😂 ドラマや映画を見るときは字幕が欠かせません。
集団の場がつらい
小声では聞き取れないのに、誰かが大きな声を出すと途端に耳に響きます。
小さい音を拾おうと神経を集中している時に近くで大きな音がすると、思わず顔をしかめて耳を押さえてしまいます。
大きい音が続く環境下に長時間いると、非常に疲れます。耳鳴りや頭痛が始まることもあります。😭
補聴器が使いづらい
補聴器の調整の問題もありますが、音を大きくしても小さな声がはっきり聞こえるようになるわけではありません。
むしろ大きな音が耳に刺さるようにうるさく感じることもあります。
私も学校で、休み時間の子どもの大声や、授業のはじめと終わりの号令のために子供達が椅子を一斉に動かす音、掃除の時間に机や椅子を運ぶ音などに悩まされることがよくあります。
難聴者にとって「音は大きければいい」というわけではないのです。
まとめ
難聴の補充現象とは、
「小さな音は聞こえにくいのに、大きな音は必要以上に響いてしまう」という不思議な現象です。
補聴器の調整の問題なのか、補充現象なのか、自分では判断が難しいと思います。私もわかりませんでした。😭
気になった方は、耳鼻科で検査を受けられることをおすすめします。
難聴だと伝えると、私と話すときに、声のボリュームを大きくしてくださる方がいます。もちろん小さくて聞こえないのも困りますが、あまりに大きすぎても聞き取りにくくなってしまいます。
「耳が聞こえにくい=音量を上げれば伝わる」というわけではなく、音の感じ方そのものが変わっているということを知っていただけると嬉しいです。
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