難聴生活を変えた聞こえのツール

はじめに

私は中等度の感音性難聴があります。聞こえにくさによる困りごとは日常のあちこちにありますが、それを少しでも軽くしてくれる道具が、世の中にはいくつもあります。
今回は、私がこれまでに実際に使ってみたことがあるもの、これから使ってみたいと考えているものなど、「難聴の私を支えてくれるツールたち」を紹介します。
それぞれのツールにはメリット・デメリットがあり、すべての人に同じように効果があるわけではありません。
でも、どんな工夫や選択肢があるのかを知っているだけでも、「こうすればいいんだ」「これは自分に合いそう」と思えるヒントになるかもしれません。
そんな思いで、この記事を書きました。

① 補聴器 〜「音が聞こえる」ことと「言葉がわかる」ことは違う〜

私が初めて補聴器を使い始めたのは、20代、大学生の頃でした。大学の講義で先生の声が聞き取れないことが多く、悩んだ末に補聴器の購入を決めました。
補聴器を使ってまず感じたのは、あたりまえですが「音が大きくなった!」ということ。
たとえば、後ろから誰かに呼ばれたとき、以前よりも気づきやすくなりました。さらに、虫の声や家電製品の音など、それまで気づいていなかった音に気づけるようになりました。
でも、それで“言葉がはっきり聞き取れる”ようになったかというと…正直、そうでもありませんでした。
特に、教室などの騒がしい場所では、周囲のざわざわした音も一緒に大きくなってしまうため、かえって疲れてしまうこともあります。
また、補聴器は高額ですし、長時間つけていると耳が痛くなったり、頭がぼんやりしたりして、正直「しんどい」と感じることもあります。
それでも、呼ばれたときの気づきやすさや、音の存在に気づく手がかりとして、補聴器は私にとって大切なツールのひとつです。
(補聴器をつけた時の聞こえ方については、「難聴者の心強い味方~補聴器の効果~」の記事で詳しく書いたので、読んでもらえると嬉しいです。)

② 文字起こしアプリ(UDトークなど)〜聞き取れなかった声が「見える」〜

小学校の教員になって、あるオンライン研修会に参加したときのこと。
講師の先生の話すスピードがとても速く、声は届いているのですが、補聴器をつけていても内容はまったくと言っていいほど聞き取れませんでした。
そこで、スタッフの方に相談すると、画面上に字幕を出してくれました。(パワーポイントのスライドの文字起こし機能だったように思います)
誤字は多いですし、文字が抜け落ちる部分もありましたが、それでも「全く聞き取れなかった言葉が、ある程度わかるようになった」ことに感動しました。
この経験があって、それまで使っていなかった文字起こしアプリ「UDトーク」を、自分のスマホやタブレットにインストールしていつでも使えるようにしました。
ほぼリアルタイムで会話を文字にして見せてくれます。「聞こえの補助」の一つとして、とても心強い存在です。
ただ、スマホを開いてアプリを起動する必要があるので、たくさんの人とこまめに話す環境では使いにくいように思います。
毎回スマホを取り出すのは手間ですし、ずっとアプリを起動したままにすると充電切れが心配です。短い会話で済みそうなら、聞き取れなかった言葉だけ紙に書いてもらう方が早いです。
また、wi‐fiに接続できる場所ならいいのですが、オフラインだと文字起こしの精度ががくんと下がります。さらに、周囲で他の人達も同時に話している状況だと、その人達の会話も文字に起こされてしまうので、非常に読みづらくなります。
私物のタブレットやスマホを使用しなければならず、話の内容が文字に起こされるので、私は念のため、研修の主催者に使ってもよいか、毎回確認をとるようにしています。

③ ロジャー(マイク型集音機)〜聞きたい声だけを“選んで”聞く〜

「ロジャー」と呼ばれるマイク型の集音機も、私が使ったことのあるツールのひとつです。
これは、話す人が小さなマイクをつけて、それを補聴器やレシーバーにつなぐことで、その人の声だけをクリアに大きく届けてくれるというもの。
特に、会議や研修などで「この人の声をしっかり聞き取りたい」というときに効果を発揮します。
購入はしていませんが、補聴器店でレンタルして使ってみました。補聴器だけで聞くよりも声が大きく聞こえ、音質もクリアで驚きました。
ただし、マイクを話す人に渡すか、その人の方にマイクを向ける必要があるため、使える場面が限られます。
また、高価な機器であるため、補聴器とあわせて個人で気軽に購入するのは難しいというのが正直なところです。
でも、「相手の声を直接耳元に届ける」という発想は、私にとってとても画期的でした。

④ スマートウォッチ 〜スマホを取り出さずに確認できる便利さ〜

現在、私が購入を検討しているのが、スマートウォッチです。
目的は、文字起こしアプリをより手軽に使うため。
これまでは、アプリを使うたびにスマホを取り出し、画面を確認していました。
でも、会議中や授業中など、あまり頻繁にスマホを触れない場面もあります。
スマートウォッチを使えば、手元でさっと字幕を確認できたり、通知を確認できたりするようになるかもしれません。
どちらにしてもアプリを起動するというひと手間はかかるようですが、聞こえにくさをカバーする“次の一手”として、今とても注目しています。
実際に使ったことがある方がいたら、使用感を教えていただけるとありがたいです!

⑤ スマートグラス 〜言葉が目の前に現れる〜

最近ニュースで知ったのが、「スマートグラス」というメガネ型のデバイスです。
なんと、相手が話した内容が、メガネのレンズ部分に文字として表示されるというもの!
まるで未来の道具のようですが、すでに販売されているものもあると聞きました。
もしこれが普及すれば、相手の口元が見えなくても、話を理解できるようになるかもしれません。
これも高価ですし、補聴器と同時につけると眼鏡のフレーム部分が補聴器にあたってしまいそうで心配です。眼鏡をずっとかけておくのは煩わしい、という方もいると思うので、万人向けではないと思います。
私も今のところ、購入は考えていません。しかし、「見えない言葉を“見える”ようにする」技術の進歩には希望を感じます。

おわりに:聞こえのツールは、「隠れてこそこそ使わないといけないもの」じゃない

これまで紹介してきたツールたちは、どれも万能な道具ではありませんが、「聞こえをちょっと楽にしてくれる」ものです。
聞こえを支えてくれる道具は他にもまだまだたくさんあるようです。
私は、障がい者手帳は持っていません。かつての私は、自分の難聴の症状を説明する時に、「障がい者手帳も持っていないのに、大げさじゃない?」と思われていないか、とても気にしていました。
補聴器などの道具も、「自分が障がい者だとアピールしているようでなんとなく使いにくい。」と感じていました。私は20代から補聴器をつけ始めたのですが、それまで生活の中に当たり前にあったものではないので、つけ始めてしばらくは、人に見られることに少し抵抗がありました。
でも今は思います。
聞こえのツールは、隠れてこそこそ使わないといけないようなものじゃなく、自分の暮らしを支えてくれる“味方”なんだと。
これからも、自分に合ったツールをうまく使って、無理せず、日常が少し楽になる方法を探しながら、生きていけたらいいなと思っています。

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