難聴者の心強い味方~補聴器の効果~

私は、中等度の感音性難聴です。
今では補聴器を使って生活していますが、はじめて補聴器をつけたのは20代の頃でした。
軽度〜中等度の難聴者の中には、補聴器を使っていない方も多いのではないでしょうか。

「補聴器をつけると、本当に聞こえやすくなるの?」
そんなふうに思っている方もいるかもしれません。
今回は、私が補聴器を使い始めた頃に感じたことを、おはなししたいと思います。

聞こえていなかった音

中等度感音性難聴の私が補聴器をつけてまず感じたのは「世界ってこんなに音であふれていたんだ」という驚きでした。

たとえば、生き物の鳴き声。
10代の頃は軽度難聴だった私。特に高音が聞こえにくかったのですが、子どもの頃は、たいていの音はまだ聞こえていたように思います。
田舎で暮らしていたので、小学生の頃はよく、せみやカエル、バッタやコオロギなどを捕まえて遊んでいました。鳴き声もうるさいほど聞こえていました。

毎年せみの鳴き声が聞こえるようになると、ああ、そろそろ夏だなと、子ども心に感じたものです。
夜寝る時に、田んぼでカエルが大合唱していて、うるさくて眠れない、ということもありました。

それが、おそらく高校生くらいの頃に、いつの間にか聞こえなくなっていました。
(そのころには虫を捕まえて遊ぶこともなくなっていたので、あまり意識しておらず、いつごろから聞こえなくなっていたのかはっきり覚えていません。😂体温計のピピッという音も、いつの間にか聞こえなくなっていました。知らない間に聞こえなくなっているって、今考えたら怖いですね。)

他にも、たとえば音楽。
何回も聞いていたお気に入りの曲の伴奏が、なんだか違って聞こえる。知っている曲も、まるで別物のように聞こえて、とまどいました。

たとえば、家電製品の音。
冷蔵庫を開けっ放しにしていると音が鳴ること、洗濯機や電子レンジは動作がとまると音が鳴ること、補聴器をつけて初めて知りました。
他にも、風の音、だれかの足音、ドアの軋む音…。

全く聞こえていなかった音から、かすかにしか聞こえていなかった音、もとの音と違って聞こえていた音。
それらの音が、またクリアに耳に届くようになりました。

静かだと思っていた日常に、こんなにたくさんの「音」があったのかと、最初は驚きの連続でした。

言葉の聞き取りは難しいまま

補聴器をつけると、たしかに音は大きくなります。まったく聞こえていなかった音が聞こえるようになることもあります。
でも、必ずしも「人の言葉がはっきり聞き取れるようになる」というわけではありません。

人の声も、もちろん音量は大きくなりますが、感音性難聴の場合は、音量を上げても言葉が聞き取れないことがあります。
例えば外国語のリスニング問題を聞いている時、音量を上げても、知っている単語でも、何と言っているかわからないことがありますよね。その感覚に少し似ているかもしれません。

少し離れた場所で話している人の声を聞きたい時には、音量が大きくなることの恩恵を多少感じますが、近い距離で話している時に音量が上がっても、効果は薄いです。

補聴器をつけると、「人の声以外の音」も大きくなるので、声だけを拾いたくても、周囲の環境によっては難しいこともあります。
最近の補聴器はとても進化しているようで、使用者の聞こえにくい高さの音だけを増幅したり、反対に雑音を軽減し、聞きたい音だけを聞こえやすく調整したりできます。人によっては効果を感じる方もいるようです。

私の場合は、まだ大きな効果を実感できておらず、結局、人の言葉を聞き取ろうとするたびに、集中して頭をフル回転させなければいけません。
いろんな音が大きく入ってくる分、補聴器をつけているほうが「聞き疲れ」する。そんな日もあります。

一日中着けていると疲労感が強いので、私は状況に応じてつけたり外したりしています。

小さなストレス

他にも、マスクをつけると、外すときに補聴器に絡まる、とか、眼鏡をかけると補聴器に当たって違和感がある、走ったり自転車に乗ったりすると風が当たってハウリングを起こす、など、補聴器のタイプにもよると思いますが、聞こえに直接関係ない場面で小さなストレスが多いです。

夏になると、汗で補聴器が濡れやすくなり、ハウリングが増えるように感じます。
肌に触れているぶん、長時間つけていると熱がこもりやすく、不快に感じることもあります。

ただでさえ暑さでぼーっとしやすい季節。
補聴器をつけたままの一日は、身体的にも精神的にも消耗してしまうことが多いです。
だからこそ、夏は「耳にも優しく」してあげたいと、最近は意識するようになりました。

補聴器購入の壁

難聴者が、聞こえにくいからちょっと補聴器でも着けてみようか、と気軽に試せないのは、その価格も原因のひとつだと思います。

私も初めて補聴器のカタログを見たときには驚きました。補聴器は片耳分だけでも購入することができますが、両耳とも聞こえが悪い人は、どちらか片方だけではなく、両耳とも装着する方がよいそうです。

価格は幅広く、両耳分合わせて10万円程度で買えるものから、数十万円、性能がいいものだと100万円近くするものもあります。
必ずしも価格が高いものが一番いい、というわけではなく、自分の難聴の症状、普段の生活環境、仕事内容、困り感などを総合的に考えて選ぶのがいいようです。

聴覚障害者手帳を持っていると、補聴器購入の際に補助金を使えるようですが、私のように軽度〜中等度の難聴で障害者手帳を持っていない者には、公的な補助はほとんど出ません。

自治体によって条件は異なるものの、子どもや高齢者に比べて、働き盛りの年齢の難聴者は支援の対象になりにくいです。つまり、全て自費です。

しかも、耐用年数はせいぜい5年というのが一般的なようです。5年に一度、数十万円の出費、大きいですよね。😭
本体価格の他にも、補聴器の電池や保管ケース、保管ケースに入れておく乾燥剤など、細々とした費用がかかります。
時には補聴器の調整に行ったり、少しでも長く使い続けるためにメンテナンスに行ったり。何かと、時間もお金もかかります。

補聴器とよく似ているものに、「集音器」や「助聴器」と呼ばれるものもあります。私は試したことがありませんが、価格は補聴器に比べてとても安いです。
ただ、マイクに入ってくる音を全体的に増幅するだけで、個人の聞こえにあわせて調整したり、雑音を軽減したりすることはできないようです。

もう少し価格が安くなれば。障害者手帳のない難聴者でも補助を受けられれば。そう感じている方はたくさんいると思います。

それでも、私が補聴器をつける理由

それでも私は、補聴器を使い続けています。
なぜなら、日常の中で得られる「ちょっとした音」が、思いがけず安心につながることがあるからです。

たとえば、誰かが近づいてくる足音。
後ろから呼ばれたときの気配。
子どもたちの小さなつぶやきや、教室のざわめき。
廊下で泣いている子どもの声に気づけることも。

「完全には聞き取れない」としても、そこに音があるとわかるだけで、意識できたり、行動を変えたりすることができるようになりました。
心なしか、補聴器をつけている時の方が、子ども達の声が活き活きとしているようにも感じます。

最後に

補聴器は、どんな音でも聞こえるようになる魔法の道具ではありません。
つけたからといって、すべての音がクリアに聞こえるわけでも、急に日常がラクになるわけでもありません。
けれど、補聴器があったおかげで、なんとか乗り越えられた場面が、私にはたくさんあります。

もちろん、聞こえ方や効果の感じ方は人それぞれです。
難聴の程度や種類、補聴器のタイプ、生活環境によって、本当に大きく違ってくると思います。

今回書いた内容は、あくまで「私の体験談」です。
すべての人に当てはまるわけではないかもしれませんが、同じように悩む誰かのヒントになれば嬉しいです。

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